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2016.09.26 原発事故による土壌汚染の現状
 東京桑野会への特別寄稿
                                                         イチエフ問題を検証する会(匿名OB)
 東日本大震災とその津波による、東京電力福島第一原子力発電所の爆発事故から5年と半年が経過した。今なお帰宅困難地域が残る原発周辺について、空間放射線量の評価はよく耳にするが、土壌汚染はいったいどうなっているのであろうか。人が住む平坦地では除染が進み、土壌を入れ替えることで空間放射線量が著しく減少したという事実がある一方で、面積の70%以上を占有する森林地区は除染の対象外となって手つかずの状態であることも事実だ。
 原子力安全保安院(現:原子力規制委員会)の報告では、放出された放射性物質の量は2011年3月14日深夜から21日までの1週間で(主な放射性物質として)、
  ヨウ素131: 160×10*15Bq
  セシウム134: 18×10*15Bq
  セシウム137: 15×10*15Bq        ※ Bq=ベクレル
と推定されている。その後も放出が止まったわけではないので、この3元素に限っても事故後の半月間で900×10*15Bq(90京ベクレル)に達したとも言われている。
 これらの放射性物質は全世界に拡散し降下したのであるが、主に原発より80km圏内特に北西方向に向けて放出されこの近隣に降下した。
 放射性ヨウ素131の物理半減期は2日と短く、5年後の現在では土壌に残っていないが、物理半減期2年の放射性セシウム134と同30年の放射性セシウム137は、未だにガンマ線を放射しながら崩壊し続けているのが現状だ。
 日本原子力研究開発機構福島研究開発部門では、事故12か月後の2012年3月から55か月後(事故後4年半)の2015年9月の、80km圏内の土壌表面におけるセシウム134と137の濃度をモニタリングした。海洋部分は除くが、陸地部分で約380地点にも及ぶ。結果は物理半減期と一致し、事故後4年半を経過してもセシウム134で22%、セシウム137では88%が残存している。また深度調査では、地表面から平均4.1cm以内に90%以上のセシウムが沈着していることも判った。
  参照→報告書pdf(抜粋)
 一方、国立環境研究所地域環境研究センターでは、独自の調査として近隣に存在する飲料用や農業用の多目的ダムの湖底における、森林から川を伝わって集積され蓄積した放射性セシウムの濃度を調査報告した。このうち湖底土表層濃度の2011〜2015年度の平均値が指定廃棄物の基準(8,000Bq/kg)を超えるダムは、いずれも福島県内の10か所で、高い順に岩部(がんべ)ダム(飯舘村):64,439Bq/kg▽横川ダム(南相馬市):27,533Bq/kg▽真野ダム(飯舘村):26,859Bq/kg−−などとなった。ただ、表層の水は各ダムとも1リットル当たり1〜2ベクレルで、飲料水基準の同10ベクレルを下回っていることも判った。

  http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160925-00000011-mai-soci
  記事をpdf化して編集しなおした資料はこちら
 一例として、2015年11月に調査した大柿ダム(浪江町)の例を図解した。湖底土表面は107,000Bq/kg、空間線量は1.3μSv/hr、湖面表層の水は1.63Bq/Lであった。水は放射線の遮断能力が高く、水深1mで99.2%、1.5mで99.98%の遮蔽効果(ガンマ線)があるため、湖面上の空間や表層水には放射線はほとんど出てこない。環境庁はこの結果を受け、ダムが森林に降下した放射性物質を堰き止めて下流へ放出させない機能を有しており、市街地の人体には影響しないと判断した。当面現状のまま放置することとなった。

 一方で市民団体による独自の調査報告がある。グリンピースという国際環境NGOである。このレポートをまとめたのは日本人ではないので、また違った観点からフクシマ問題を見ることができる。
  グリンピース報告概要(日本語翻訳)pdf
 末文となったが、筆者が調査したデータで、日本国内の土壌表面の放射線量を下記する。福島第一原発から30km離れた浪江町、飯館村で3月16・17日に採取した陸土の地表土壌の放射線濃度(Bq/kg)は、放射性セシウム137 濃度として任意の3地点でそれぞれ 2,300、19,000、51,000Bq/kg であった。文部科学省の調査ではほぼ同地区で放射性セシウム137 濃度として17,000〜270,000Bq/kgと報告されほぼ同一レベルと考えられる。なお、原発事故前の平成21年度(2009年度)の畑土壌における、日本全国平均で放射性セシウム137濃度は地域によって幅はあるものの 6.1±2.5Bq/kgと報告されている。原発事故前の濃度は、放射性セシウムが自然界には存在しえないことから、過去における核実験や原子力施設における事故に由来するものと考えられる。残念ながら核実験や事故により放出される放射性物質は、地球規模で全世界に拡散してしまうのだ。先の日本原子力研究開発機構の報告にあった、事故後4年半のセシウム137残存率が88%であったことを考えれば、今なお原発周辺の土壌表面における放射性物質濃度は事故以前のレベルからは程遠く、極めて多いと言わざるを得ない。
 誰も言わなかったことであるが、原発事故以前の環境に戻るのは100年や200年では足りない。故郷を追われた方々には申し訳ないが、安全で安心して暮らすためには故郷を捨てなければならない。決して政治主導の安全宣言をうのみにしてはいけない。

注)原発事故で放出された放射性物質は、ヨウ素やセシウム以外にも数多くあるが、放出量や物理半減期、崩壊時の
  ガンマ線放出量を勘案すると、セシウム137を押さえてさえおけばよい。次に見るべきはストロンチウム90と考えられるが、
  推定放出量がセシウム137の1/100以下である。ちなみに物理半減期は29年で、セシウム137とほぼ同じ。同一
  地区での土表面濃度は、セシウム137と比較して1/2,000〜1/4,000と極めて少ない。

                                                          東京桑野会ホームページ委員会編集
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参考資料: 福島県の空間放射線量推移