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86期の柳沼勇弥氏
86期 柳沼勇弥


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2017.05.17 【論説】 東日本大震災6年・被災地差別/正しい知識の普及を

                                                       柳沼勇弥(86期) 共同通信論説委員

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から6年。被災地の復興が多くの課題に直面しているのに加えて、避難者らに対するいじめや差別が相次いでいる。誠に憂慮に堪えない。こうした問題の原因は放射線に関する根拠のない不安であり、正しい情報の発信と知識の普及が不可欠だ。行政はもとより、報道の責任も重大である。
 原発事故で福島県から横浜市に自主避難した中学生がいじめを受けていたことが昨年11月に明らかになったのをきっかけに、同様のいじめが各地で次々に表面化した。しかし、これまでも福島県出身者が県外で「放射能がうつる」と言われたなどの例は、たびたび報告されてきた。今回の例は、原発事故以降続いてきた構造的な差別の一角とみるべきだ。
 福島県産の食品などの風評被害も後を絶たない。昨年、生活協同組合連合会「グリーンコープ連合」(本部・福岡市)は、お中元の「東日本大震災復興応援商品」として、福島を除く「東北5県で製造された」商品をカタログに掲載して批判され、謝罪に追い込まれた。放射性物質への不安を理由とする差別といわれても仕方ない。
 もちろん、仮にこうした事例に科学的根拠があったとしても、差別は決して許されない。この原則を確認した上で、この種の不安に科学的根拠は全くないことをあらためて強調したい。
 福島県は、避難区域以外なら放射線量は十分に低く、通常の生活を営むのに健康のリスクはない。福島県産の農林水産物については放射性物質の厳しい検査が行われており、とりわけコメは「全袋検査」が実施されている。2015、16年産米で不合格は一袋もない。福島県産の食品は日本一安全だと言ってよい。
 それにもかかわらず、福島と放射性物質、放射線に関する誤った情報が社会に広がり、差別意識が再生産されている。そして、この差別は「うつる」「けがれ」などの思い込みにおいて、広島、長崎の被爆者と水俣病患者が受けてきた差別と共通性がある。
 差別意識が広がる原因は明らかだ。放射線に関する正しい知識が一般常識になっておらず、人々はインターネット上などの怪しい情報に振り回されがちになる。一部の学者やジャーナリストが根拠の乏しい危険をあおる情報発信をしてきたことの影響も大きい。メディアも、安全に関する確かな事実よりも健康不安を強調して報道する傾向はなかっただろうか。
 こうした差別の根本原因は東京電力と政府にある、という反論があるだろう。原発事故で大きな被害を引き起こした東電と政府の責任を追及するのは当然だ。しかし、事故の責任追及と、差別をつくりだしている不正確な情報を批判することとは両立する。
 放射性物質と放射線を正しく恐れる必要がある。政府は福島の現実をもっと広く知らせるよう努めなければならない。地道な教育も重要だ。全国の小中高校で、放射線や食品の安全に関する授業を実施してはどうか。メディアは学術的な合意が得られている事柄を柱として、正確な知識の普及に尽力すべきだ。
 広島、長崎の被爆者と水俣病患者は長年にわたり、就職や結婚でも差別を受けた。この忌まわしい差別の歴史を繰り返してはならない。 

【編集部注】
 この論説は共同通信社によって配信され、山形新聞、茨城新聞、日本海新聞、山陰中央新報、大分合同新聞(順不同)などの地方紙に掲載されました。

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