原子力発電所の安全神話は崩れた【U】 | |||||||||
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2024.12.07 原子力発電所の安全神話は崩れた〜福島第一原発事故の顛末記【U】〜 イチエフ問題を検証する会(匿名OB)制作・編集 ⇒その【T】を先に読んで。戻るにはこちらをクリック 今から14年ほど前までは、日本の電力事情は地球温暖化対策に主眼を置き、化石燃料での火力発電所を廃棄し、より二酸化炭素排出量の少ない天然ガスやバイオ燃料、二酸化炭素を原料とする合成燃料を使用した火力発電に、あるいは太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを利用したクリーンな発電、そして当時の認識としては「安全と二酸化炭素を全く排出しない原子力発電」へとシフトを開始していった。特に日本政府と各電力会社は、発電コストが最も小さくクリーンと言われていた原子力発電について、今後も増加していく電力需要に対しインフラの整備を推進する予定であった。「日本の原発は安全策を何重にも巡らせて事故は絶対に起こらない」はずだった、ところが・・・ ⇒その【T】に戻るのはこちらをクリック 《原子力発電所の安全神話は崩れた【T】からの続き》 そんな緊急事態のさなか、何をあろうか当時の民主党政権下の菅直人首相が班目春樹原子力安全委員会委員長を伴い、3月12日7時11分に政府専用ヘリを使って、福島第一原発敷地内に降り立ったのである。同日8時4分まで滞在。免震棟にて吉田所長に、「なぜベントをしないのか。早くベントをしろ。」と迫った。首相対応に追われ、対策は一時ストップ。吉田所長は苦肉の答弁で、「決死隊を編成し、原子炉建屋に突入する。」約束をさせられた。「決死隊」という言葉を2度も使った。中央制御室の運転員達は、自ら志願し「決死隊」を編成(2名1組で3班の編成)。同9時4分「決死隊第1班」が1号機原子炉建屋に向け出発、ひとり13kgの重装備である。建屋2階のMO弁のハンドルを手動で回し25%開いて帰還。11分間の作業でひとり25ミリシーベルトの被ばく。空気ボンベの残量も気になるが、自然と小走りに移動した。9時24分「決死隊第2班」が出発。今度は地下1階のAO弁を目指したが半分程の距離で線量計が100ミリシーベルトを越えたため、何もできずに大急ぎで帰還。「決死隊第3班」も出動したが、引き返すよう命令されて何もできずに帰還した。人の手によるAO弁の開放は不可能と判断し、エアコンプレッサーを弁の配管に接続し操作しようという提案があった。協力会社の所員室に置いてあったハンディコンプレッサーを取りに行き、小型バッテリーと決死の接続。これらの対応で14時28分、不確実ではあったがベントに成功したデータが得られた。1号機原子炉格納容器内の圧が、750キロパスカルから580に下がったのだ。しかしながら成功の喜びの約1時間後、3月12日15時36分、突然1号機が水素爆発した。激しい爆音と共に下から突き上げる振動で、中央制御室の天井パネルが全部落ち、椅子に座っていた作業員が転ぶほどであった。誰かが1号機原子炉建屋の屋根が吹き飛んでいると叫び、40名程いた作業員は死を覚悟した。ベテラン運転員12名を残し、他の作業員は免震棟へ避難した。設計圧力を既に長時間越えていて、さらに急激に圧変動があったため格納容器が裂けたものと推定された。
↓ 3号機の爆発までの状況を時間軸で説明 最初の5日目朝までの緊迫した状況を簡単に記載したが、読者には伝わっただろうか。 その後も構内の汚染は進み、正門付近の空間放射線量は毎時400ミリシーベルトまで上昇した(3月15日午前10時)。構内に残っていた人員はごく一部を除き、全員退避した。東電社員と協力会社の作業員は南に10km離れた福島第二原発に集結、待機となった。第一原発はチェルノブイリと同じく「死んだ」と、誰もが思った。 青森県の東北電力東通原発や茨城県の日本原電東海第二原発での津波はそれほど高くなかったが、宮城県の東北電力女川原発では最大13mの津波が襲った(地震による地盤沈下が1mあったので、実質14mの津波)。福島第一原発と同程度だったにも関わらず、外部電源を喪失することもなく非常用ジーゼル発電装置も作動した。最大の理由は立地の高さである。福島第一の標高10mに対し、女川は15mであった。また外部送電線については、福島第一では鉄塔が地震で倒れ外部給電ができなくなり、地下にあった自家発電装置が浸水して使用できなくなった。女川は外部からの給電もあり、自家発電装置も上階に設置され浸水を免れていた。これが明暗を分けたのである。 原子力発電の安全神話は崩れ去った。何重にもかけられた安全対策のはずが、ひとつのきっかけで補完できなくなり、全てが負のスパイラルに陥ったのだ。地震という自然災害があったもののトリガーにしか過ぎない。事故の原因は人災であると明確に言えるだろう。原子核反応を人間が征服して自在にコントロールできるなんて慢心だ。まだ人類は「核分裂を制御する能力」を持ち合わせていない。これに反対意見の方々は早急に、「人体に有害な放射線」を全く出さない核エネルギーの利用方法を確立して欲しい。仮に核物質が空間に放出されても、全て無害で放射性が無ければ安心であろう。 《その【T】を先に読んでください》⇒その【T】はこちらをクリック 福島第一原発1〜4号機の仕組み(沸騰水型軽水炉)説明 福島第一原発・第二原発の設備被害状況の比較説明 |
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